大学・社会人カンパニー キャリア支援事業本部 本部長
乾 史憲
生成AIの普及により、採用活動のあり方は大きな転換期を迎えています。エントリーシートの作成や筆記試験に生成AIを活用する学生も増え、企業からは「応募者本人の力をどのように見極めるべきか」という声が聞かれるようになりました。一方で、中学・高校での指導要領の変化や、入試の多様化も影響して、学歴や資格だけでは測れない「考える力」や「主体的に行動する力」の重要性は、ますます高まっています。
そうした中、ベネッセコーポレーションが提供するアセスメントツール「GPS(Global Proficiency Skills program)」は、様々な「思考力」を可視化することで、大学までの学びと社会で求められる力をつなぐことを目指しています。高校・大学をはじめとした学校向けの「GPS-Academic」と企業向けの「GPS-Business」を展開し、学修成果の可視化から採用・人材育成まで幅広く活用されています。
今回は、GPS開発プロジェクト責任者の乾に、サービス誕生の背景やAI時代における人材評価のあり方、そして今後の展望について話を聞きました。
「学ぶ」ことと「働く」ことの分断を解消したい
GPSの開発から約10年が経過しました。改めて、このサービスが生まれた背景を教えてください。
- 乾
-
最大の動機は、「大学での学びや、アルバイト、サークル活動といった多様な経験が、社会に出る時に正当に評価されていない」という現状をなんとかしたいという思いでした。私たちは大学での学びを支援する立場として、学生たちが培ってきた知識や探究心、そして社会人基礎力が、就職活動という画一的な選考の場に立った途端に分断されてしまうことに、長年課題を感じてきました。
この構造的な課題を解消し、社会で本当に必要とされる力を正当に評価し、「学ぶ」と「働く」をつなぐ仕組みを作りたいと考えました。
生成AIの浸透で、採用プロセスは大きな転換期を迎えている
生成AIの普及により、採用現場ではどのような変化が起きていますか?
- 乾
-
採用のプロセスそのものが、かつてない転換期を迎えています。エントリーシートの作成や筆記試験において、生成AIを活用する学生は珍しくありません。選考対策の効率化が進む一方で、従来の選考プロセスでは「本人の力を見極めにくくなっている」という危機感があります。AIが回答を生成し、リモート面接でもAIのサポートを受けながら受け答えができる。これでは「本人の能力や意志」を判別することが非常に困難です。
しかし、企業が求める「組織の目的を理解し、自分の意志で言葉を紡ぎ、他者と協力しながら試行錯誤できる人材」という本質は変わっていません。AIがタスクをこなす時代だからこそ、「自ら問いを立て、判断し、周囲を巻き込みながら前に進める力」の重要性は、より一層顕著になっています。今の採用市場に必要なのは、正解を暗記して回答する力ではなく、面接という限られた時間の中で、お互いの価値観を共有し、意志を確認するコミュニケーションの時間なのではないでしょうか。
「思考力」と「パーソナリティ」を数値で測る。GPSが提供する独自の客観的指標
他の選考試験と比較して、GPSの強みはどこにあるのでしょうか。
- 乾
-
GPSの開発にあたって初めに、これからの"答えの無い時代"において、活躍するために必要な問題解決能力の構成概念を整理しました。当時、「21世紀スキル」として重視されていた「4C」も踏まえ、「批判的思考力・創造的思考力・協働的思考力・コミュニケーション力」が重要だと整理し、これらの思考力や姿勢・態度を測定できる項目の設定は大学有識者の監修なども経て行いました。
中でも最大の特徴は、数学の試験のように「思考力」そのものを客観的な指標で可視化することができる点です。GPSでは、批判的思考力、創造的思考力、協働的思考力の3つの軸で能力を分解し、統計的なアプローチを用いてスコア化しています。
開発にあたっては、偶然の正解を排除する設計や、能力の度合いごとにスコアに反映される設問設計を徹底しました。また、近年導入した「CAT(Computerized Adaptive Testing)」という技術により、受験者の回答に合わせて問題の難易度がリアルタイムで変化するため、短時間で精度の高い測定が可能です。これにより、従来のテストでは見えなかった「その人の本質的な思考の強み」を可視化しています。
また、受験者によって出題される問題や順番が異なるため、回答の共有などへの不正抑止にもなり、本来の能力を測ることができるのも大きな特徴です。
例えば、偏差値という既存の枠組みだけでは、ある大学の学生が持つ「課題発見能力」や「事実と意見を区別する力」までは見えません。GPSは、学歴というフィルターを越えて、その人が社会でどう考え、どう動くのかという「思考の質」を可視化します。これにより、これまで埋もれていた優秀な人材に光を当てることが可能になりました。

思考力で評価することで、新たな角度からのスクリーニングが可能に
- 乾
-
個人の能力の度合いだけでなく全体の回答分布を分析しながら設問を作成する必要があるため、アセスメントの統計学等を長年研究してきたベネッセ教育総合研究所の知見や、進研模試など学校現場等のアセスメントを開発してきた担当者の知見がなければ実現は難しかったと思います。
「人材獲得競争」から「人材育成競争」へ
今後、GPSをどのように活用されていくべきだとお考えですか?
- 乾
-
今後は、単に優秀な人材を「獲得」する競争ではなく、いかに人材を「育成」し、輩出できるかという競争へシフトしてほしいと考えています。
例えば、GPSを採用選考ツールとしてではなく、入社後の研修体系とGPSのスコアを連動させ、社員一人ひとりの強みに合わせた育成に活用する事例も出ています。AI時代において、AIが出したアウトプットに対し「それは違う」「こうすべきだ」と判断を下せるのは、長年試行錯誤を繰り返してきた人材です。GPSを、組織全体の「思考力の底上げ」や、社員が前向きな気持ちで学び続けるための指針として活用していただきたいと考えています。
また、リスキリングの文脈でも重要です。これまで「職種」で語られてきたキャリアを、「どのような思考の強みを持っているか」という視点に置き換えることで、職種を超えたキャリアチェンジや、一人ひとりの「意志」に適したポジションへの配置が可能になります。

GPSのスコアをもとに学生を推薦し、大手企業への採用につながった話など
数々のエピソードを語る乾。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
- 乾
-
私たちが目指すのは、「学歴」から「学習歴」を誇れる社会です。企業が社員の「学び」を支援し、個人のキャリアオーナーシップを尊重する。そうした「人材育成競争」が活発な企業こそが、結果として持続的な成長を遂げられると信じています。ベネッセが通信教育等の事業で長年培ってきた「学びを継続させるための様々な仕掛け」を、大人の学びや組織開発の現場にも応用し、社会全体のポジティブなキャリアアップ・キャリアチェンジに貢献していきたいです。
乾 史憲(Fuminori INUI)
進研ゼミ事業で編集・商品開発・マーケティングを担当した後、教育・キャリア領域の経営企画に従事。2015年のベネッセi-キャリア設立に参画し、事業開発責任者、代表取締役副社長、代表取締役社長を歴任。現在はベネッセコーポレーションでキャリア支援事業統括およびGPS事業開発室を担当。
※ご紹介した情報、プロフィールは2026年6月取材時のものです。
批判的思考力・創造的思考力・協働的思考力といった、問題解決に必要な「思考力」を客観的に測定・可視化するアセスメントサービス。採用選考における人材の見極めだけでなく、社員一人ひとりの人材育成や配置・登用の検討など、幅広い人材マネジメントに活用されている。
