デジタルと創造性で「いのちを歓喜させる学び」を、より多くの人へ―デジタルハリウッドとベネッセが描く教育のこれから

左:デジタルハリウッド株式会社 取締役CSO

松原 弘樹

2011年にベネッセコーポレーションへ入社。高校向けの事業や事業開発に携わった後、新規事業・業務改革提案制度「B-STAGE」の立ち上げなどを担当。その後は大学・社会人領域で、経営戦略、事業開発、M&Aに携わり、デジタルハリウッドのグループインにも関与。2025年からデジタルハリウッドの経営に参画し、現在は取締役CSOとして、ベネッセグループとの連携を軸に、AI・DX教育の展開、法人研修事業の推進、新規事業の創出等に注力中。

右:デジタルハリウッド 創立者 特命教授

杉山 知之

デジタルハリウッド創立者、デジタルハリウッド株式会社取締役会長、デジタルハリウッド大学・大学院特命教授。工学博士。日本大学大学院理工学研究科修了後、MITメディア・ラボ客員研究員、日本大学短期大学部専任講師などを経て、1994年にデジタルハリウッドを設立。2004年にデジタルハリウッド大学大学院、翌2005年にデジタルハリウッド大学を開学し、2026年3月まで学長を務めた。デジタル分野のクリエイター育成と教育の発展に長年取り組んでいる。

前編では、デジタルハリウッド創立者の杉山知之先生に、1994年の創立から現在まで大切にしてきた教育の考えをうかがいました。

その原点にあるのは、コンピュータを使い、用意された未来ではなく「自分が望む未来を、自らつくる」という思いです。異なる背景を持つ人が交わる「混沌」をあえて生み出し、まずは自分の手でつくる。その過程で足りないものに気づき、技術やリベラルアーツを学んでいく。新しいテクノロジーを恐れず、まず試してみる姿勢も、創立以来受け継がれています。

こうして培われてきたデジタルハリウッドの学びは、ベネッセコーポレーショングループ(以下、ベネッセグループ)に加わったことで、新たな展開を迎えています。企業のAI・DX人材育成や学校教育など、これまでとは異なる領域での協働も始まりました。

後編では、杉山先生と、ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)からデジタルハリウッドの経営に参画した取締役CSOの松原弘樹さんに、グループインへの思い、具体的な取り組み、そして両社が目指す教育の未来について聞きました。

グループインへの想い

デジタルハリウッドがベネッセグループに加わると聞いたとき、杉山先生はどのようなことを期待しましたか。

杉山

まず思ったのは、デジタルハリウッドは「ベネッセの学校」として十分な教育内容を持っているという自信でした。

そして、ベネッセグループで働く皆さんにも、デジタルハリウッドを「自分たちの学校」だと思ってほしいと強く感じました。大学・大学院や社会人向けスクールなど、グループの皆さん自身にも活用してもらえる学びの場だからです。

日本の教育で幅広い接点を持つベネッセとデジタルハリウッドが同じグループになったことには、大きな意味があると感じています。

デジタルハリウッドの資産を、次の成長へ

松原さんが、デジタルハリウッドの経営に参画した経緯を教えてください。

松原

ベネッセでは、大学・社会人領域をこれからの成長領域の一つと位置づけ、特にDX人材育成に力を入れてきました。
私はその中で、経営戦略や事業開発・M&Aを担当し、デジタルハリウッドのグループインにも関わりました。2025年からはデジタルハリウッドの経営に参画し、AI・DX人材育成やグローバル展開など、次の10年につながる新たな成長戦略をつくり、実行しています。

「教育をつくる」と「つくる人を育てる」

両社の強みを、どのように捉えていますか。

松原

一言で表すと、デジタルハリウッドは「Createする力」、ベネッセグループは「Scaleする力」を持っていると思います。

デジタルハリウッドの「Create」には、二つの意味があります。

一つは、「教育そのものをCreateする」ことです。創立以来、3DCG、映像、WEBデザイン、エンジニアリング、起業など、その時点ではまだ十分に認知されていなかった領域を捉え、いち早く教育にしてきました。既存の教育を改善するだけでなく、これから必要になる教育そのものをつくってきたのです。

もう一つは、「Createする人を育てる」ことです。アニメ、ゲーム、映像、プログラム、サービスなどデジタルコンテンツを、自分自身でつくり、世の中へ送り出す。知識を得るだけでなく、学んだことを使って新しい価値を生み出すことを重視しています。

一方で、ベネッセには、学校教育から大学、社会人教育まで、幅広い学習者、教育機関、企業等との接点があります。デジタルハリウッドが教育をつくり、ベネッセがより多くの人へ広げる。この組み合わせには、大きな可能性があると考えています。

事業を担う人に、デジタルの力を

具体的には、どのような協働が始まっていますか。

松原

現在、特に力を入れているのが、企業のAI・DX人材育成です。

事業を担う人にテクノロジーの知識がなければ、「この技術で何ができるのか」「事業上の課題を解決できるのか」「エンジニアからの提案をどう評価すればよいのか」を判断することが難しくなります。

一方で、デジタル・システムに詳しい人が、必ずしも事業や顧客、組織を理解し、周囲を巻き込みながら変革を実行できるとは限りません。

そこで重視しているのが、デジタル人材に変革を任せる「D→X(デジタル人材に変革力を)」だけではなく、変革を担えるリーダー人材にデジタルの力を持ってもらう「X→D(変革人材にデジタル力を)」という考え方です。

起業家・エンジニア養成スクール「G's(ジーズ)」の教育を核にした企業向けの「DXリーダー養成コース」では、経営や事業を担う人が、自らAIやプログラミングを使ってプロトタイプをつくります。知識を学ぶだけでなく、実際に手を動かし、サービスや事業企画まで考える研修です。

自分の考えを形にすることで、エンジニアやデザイナーと同じものを見ながら議論できるようになる。AI時代に事業とテクノロジーの架け橋となる人材を増やそうとしています。

学校教育にも「つくる」学びを届ける

企業研修以外には、どのような可能性がありますか。

松原

学校教育にも、大きな可能性があります。

ベネッセには、長年培ってきた学校とのネットワークや、学校教育に関する知見があります。一方、デジタルハリウッドには、3DCG、デザイン、映像、データサイエンス、エンジニアリングなど、社会や産業につながる専門教育があります。

N-E.X.T.ハイスクール※支援事業は、こうした両社の強みを掛け合わせる象徴的な取り組みの一つです。これまでの学校教育の延長線上だけでは生まれにくかった学びを、デジタルハリウッドの専門性を加えることでつくろうとしています。

※文部科学省が推進する高校教育改革の取組

AIによって、「つくる」ための技術的なハードルは下がり始めています。クリエイティブは一部の専門家だけのものではなく、誰もが自分のアイデアや世界観を表現するための力になっていくと思います。

学校や家庭では、自分の作品やアイデアを形にする。高等教育では、それを進路やキャリアにつなげる。社会人になれば、新しい商品、サービス、事業を生み出す。ベネッセが持つさまざまな学びの接点に、デジタルハリウッドの「Createする教育」を広げていきたいと考えています。

「正しいか」だけでなく、「好きか」を大切にする

松原さん自身、デジタルハリウッドへ来て変化したことはありますか。

松原

一番大きく変わったのは、「何を大切にして仕事をするのか、生きるのか」という価値観かもしれません。

役職が上がり、経営に近づく中で、いつの間にか「周囲の期待に応えること」や「正解を出すこと」を強く意識するようになっていました。でも、デジタルハリウッドに来て、学生や卒業生、クリエイターの方々、そして社員の皆さんに触れる中で、「好きだからやる」「面白いからつくる」という、もっとシンプルな感覚を思い出したんです。

もちろん「正しさ」は大切です。でも、それだけではなく、「自分はこれが好きなのか」「心が動くのか」という感覚も大切にしたい。

デジタルハリウッドには、「みんなを生きるな。自分を生きよう。」という言葉があります。この言葉が、今の自分にはすごく響いています。

日本で培った教育を、社会へ、世界へ

今後、両社でどのようなことを実現したいですか。

杉山

デジタルハリウッドの社会人向けスクールは、ベネッセの協力を得ることで、さらに発展できると思っています。

企業でAIの利用が広がれば、多くの社会人がキャリアを転換する必要に迫られる可能性があります。そのための学びを提供していきたいと考えています。

大学についても、これまで海外から学生が集まる環境を育ててきました。今後は、ベネッセの協力を得ながら、デジタルハリウッドならではの海外展開を進める時期に来ていると感じています。

松原

私が挑戦したいことの一つも、グローバル展開です。

海外のクリエイティブ系大学を視察した際、日本のアニメやゲームが、「自分もクリエイターになりたい」という現地の学生の思いにまで影響を与えていることを知りました。

デジタルハリウッドには、30年以上にわたって培ってきたクリエイター教育があります。そして東京には、アニメ、ゲーム、マンガ、映像、テクノロジーなどの産業が集まっています。

日本のコンテンツを世界へ届けるだけでなく、それを生み出す人を育てる教育も世界へ届けたい。そして、世界のクリエイターを日本・東京の産業へつないでいきたいと考えています。その教育を広げていくうえでも、ベネッセと一緒になった意味は大きいと思います。

一人の「好き」が、次の誰かの「好き」を生む

ベネッセグループの一員として、どのような価値を提供していきたいですか。

松原

デジタルハリウッドで学ぶ人たちは、自分が何を好きなのか、何を美しいと思うのか、何に心を動かされ、何を表現したいのかという「自分の世界観」を大切にしています。

自分の「好き」を追求し、自分だけの世界観をつくり、それを表現して仕事につなげていく。その学び自体が、学ぶ人のいのちを歓喜させるものだと思います。

さらに、その人が生み出した映像やゲーム、デザイン、サービスが、別の誰かの心を動かすことがあります。それを見た人の中に、「自分もこんなものをつくりたい」という次の「好き」が生まれるかもしれません。

学ぶ人自身のいのちが歓喜し、その人が生み出したものが、また誰かのいのちを歓喜させていく。デジタルハリウッドには、そのような循環を生み出す力があります。そして、ベネッセには、その学びをより多くの人へ届ける力があります。

デジタルハリウッドの「Createする力」と、ベネッセの「Scaleする力」を掛け合わせ、いのちの歓喜が連鎖していく学びを、社会へ広げていきたいと思います。

杉山

ベネッセグループの皆さんにも、デジタルハリウッドを自分たちの学校として活用してほしいと思っています。

そして、「Celebrate Life with Learning」を世界へ広げ、人類社会のアップデートに貢献していきたいですね。



撮影:兒嶋 章 ※ご紹介した情報、プロフィールは2026年8月取材時のものです。


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