自分の望む未来は、自分でつくる―創立者・杉山知之が語るデジタルハリウッドの教育

デジタルハリウッド 創立者 特命教授

杉山 知之

生成AIをはじめ、テクノロジーは社会や仕事のあり方を大きく変えています。しかし、デジタル技術を使って自ら未来をつくるという考えは、最近になって生まれたものではありません。

ベネッセコーポレーショングループであるデジタルハリウッドは、コンピュータとネットワーク技術の進化が社会にもたらす変化を見据え、1994年に誕生しました。以来、大学・大学院や社会人向けスクールなどを通じ、数多くのクリエイターやデジタル人材を育成してきました。

創立時に思い描いていた未来とは。多様な人が集まり生み出される技術とアイデア、実践とリベラルアーツを組み合わせたカリキュラム、起業家を育む環境、そして新しいテクノロジーへの向き合い方まで。創立者であり、2026年3月まで学長を務められた杉山知之先生に聞きました。

この世の、あらゆるものをデザインし直す

デジタルハリウッドの創立以来、大切にしてきたことを教えてください。

杉山

「思い描く未来は、コンピュータを使いこなすことでしか実現しない」という考えが根底にあります。そこで、創立当初、学内で広めたキャッチコピーが「Re-Designing The Future」でした。

コンピュータとネットワークによって生まれた新しい環境に合わせて、すべてのものをデザインし直そうという意味です。対象は広告などの表現だけではありません。会社、学校、家庭、政治、法律も含まれます。

さらにこのキャッチコピーにはスクール生、学部生・大学院生に向けられた、もう一つのメッセージがありました。用意された未来を漫然と生きていても、自分が望む未来が来るとは限りません。コンピュータという強力な道具を使って、自分自身の未来をつくってほしい。その思いは、創立時から変わっていません。

異なる人が集まる「混沌」を、あえてつくる

デジタルハリウッドには、どのような人が集まってきたのでしょうか。

杉山

一般的に、学校という場所は、建築家になりたい、医師になりたいというように、比較的近い目標を持つ人が集まることが多いと思います。

一方、デジタルハリウッドに集まる人は、年齢、学歴、資格、これまでの経験がバラバラなのです。コンピュータを使いこなす力は、今の時代の「読み書き算盤」のようなもので、誰にでも必要なものだからこそ、10万人もの人が学びに来ました。結果的に多様な人々が集まる「混沌」がデジタルハリウッドの特徴となったのです。

大学でも、本来なら複数の学科に分けて教えるような領域を、一つの学部で扱っています。異なる専門や関心を持つ人が交わる「混沌」を、意図的につくっているのです。

「混沌」から、新しいものを生みだす。それがデジタルハリウッドの特徴です。

まずは、つくる。そして、学ぶ

大学では、デジタル教育とリベラルアーツを組み合わせています。その狙いを教えてください。

杉山

学部生の多くは「コンピュータを使って何かをつくりたい」という思いを持っています。その意欲を生かすため、1年次から制作技術を学ぶ実習科目を置いています。

高校生の頃から作りたいものがあった学部生は、最初のひとつは作れるでしょう。でも次を作ろうとしたとき、自分の中に大幅に知識も知恵も無いことに自ら気付くのです。そこで本学では2~4年次にコンテンツ制作にも役立つリベラルアーツ科目群を置いているのです。最初は制作の参考程度に考えていた学生も、研究者による本格的な講義を受けることで、その意味に気づいていきます。

つくりたいものがあるからこそ、自分に必要な学びが見えてくる。その順番を大切にしています。AIと共生する時代には、AIと適切にやり取りするためにも、幅広い知識や考える力、つまりリベラルアーツが必要になります。

起業を教えるのではなく、世の中にないものをつくる

デジタルハリウッドから起業家が生まれる背景には、どのような教育がありますか。

杉山

デジタルハリウッド大学には「アントレプレナー養成コース」というものがあるわけではありません。

学生が教員に新しいサービスを提案すると、「世の中にまだないものを」と返ってきます。そして、良い提案であれば、アイデアで終わらせず、実際につくるところまで進めます。その先で、起業という選択肢が出てくることがあります。

専門科目の教員には、起業経験を持つ人が多く、複数回の起業を経験している教員もいます。学生にとって起業は大きな決断ですが、学内には経験に基づいて相談できる相手がいます。

起業の仕方だけを学ぶのではなく、世の中にないものを考え、実際に形にする。その積み重ねが、結果として起業につながる環境をつくっています。

ユニークな教育環境の結果、学生によるベンチャー数は全国5位に。

新しい技術が来たら、まず触れてみる

生成AIなど、急速に進化するテクノロジーとは、どのように向き合っていますか。

杉山

生成AIが登場したとき、私は学長でしたが、「AIをどう扱うか」を議論する前に、専門科目を担当する教員たちは、自ら試し、理解したことを授業で教え始めていました。

多くの教員が、デジタル領域で働く現役のプロフェッショナルです。新しい技術が出てきたら、まず触れてみる。そして、自分が理解したことを教育へ取り入れる。そうした姿勢が、コンセンサスをとらずとも、文化として根付いています。

生成AIに驚きや戸惑いを感じた学生もいたと思います。それでも、大学全体が短期間で「AI First」へと変わっていきました。新しいテクノロジーを自由に試す場でなくなれば、大学としての存在意義はないと考えています。

変わり続けるために、変わらないもの

創立から30年以上がたった今、改めてデジタルハリウッドらしさをどのように捉えていますか。

杉山

デジタルハリウッドでは、異なる背景を持つ人が集まり、テクノロジーを使って自分のつくりたいものを形にします。その過程で、足りない知識を学び、教員や仲間に相談しながら、さらに新しいものを生み出していきます。

技術はこれからも変わり続けます。しかし、新しい技術を恐れずに使い、自分の未来を自分でつくるという考えは変わりません。

「Re-Designing The Future」という言葉に込めた思いは、今もデジタルハリウッドの教育の中に生きています。


―創立以来、デジタルハリウッドが育んできた「自分の未来を自らつくる学び」。この学びは、ベネッセコーポレーショングループに加わったことで、企業や学校、さらに世界へと広がろうとしています。 後編では、デジタルハリウッドとベネッセが、両社の強みを生かした具体的な取り組みと、これからの教育をどのように生み出そうとしているのかを、杉山先生と、デジタルハリウッド取締役CSOの松原弘樹さんに聞きます。

杉山 知之(Tomoyuki SUGIYAMA)

デジタルハリウッド創立者、デジタルハリウッド株式会社取締役会長、デジタルハリウッド大学・大学院特命教授。工学博士。日本大学大学院理工学研究科修了後、MITメディア・ラボ客員研究員、日本大学短期大学部専任講師などを経て、1994年にデジタルハリウッドを設立。2004年にデジタルハリウッド大学大学院、翌2005年にデジタルハリウッド大学を開学し、2026年3月まで学長を務めた。デジタル分野のクリエイター育成と教育の発展に長年取り組んでいる。

※ご紹介した情報、プロフィールは2026年8月取材時のものです。